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おたく的なことをちまちまと綴るブログです。
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眞白い壁で覆はれた長方形のユウトピアはとても清潔で眩しい。
密度九八.五九三〇八二%の硝子を嵌め殺した窓に陽光が反射して、刃物のやうなその光を眼に受けた小鳥が盲になつて啼き叫ぶ。
柔らかな光は盡きたと、冬眠から醒めることが出來ずに生き埋めのままの蛙が疊の下で呻いてゐる。
昔此處は息をし易い場所でした。
鯉が酸欠で喘いでゐる。

五百萬もした眞ツ赤な四輪に片手を、モウ片手を妻の肩に置いた同僚の静かな笑顔。

「だうです。立派なもんでせう。丁度櫻も満開で、春告げ鳥も僕らの新しい門出を祝福してくれてゐるやうでしたよ。」

鐵の門扉の兩側で、今が最も美しいと咲き誇る櫻は僞善者だ。
小鳥も、蛙も、鯉も、僞善に醉ひ痴れ僞者のために己が春を捧げて飽かない。
僞者だらけのこの世では それが最も美しい。

「ねえ、だうです。綺麗な櫻でせう。ねえ。」

彼のスーツから漂ふ仄かに薬臭い清潔な香り。
冥府の香り。

美しいものは汚泥を吸つてその輝きを増すものである。
薄闇にこそ相應しい彼女が眞昼間の光の中で存分に呼吸し得るはずもない。蒸留水で頭も狂ふ。
櫻が美しかつた時代は終はつたのだ。
だから彼女はこんなにも病的に僞善を働く。
こんなにも病的に色づく―――さながら私の戀したあのひとの頬のやうに。

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